県政オンブズマン静岡 〜静岡県庁の光と闇〜

県施策における静岡空港の罪過


平成27年3月8日(日)

<はじめに>
静岡空港は、平成21年6月の開港から5年と10か月を迎えようとしています。
開港からの最初の1年間の実績は63万4,661人、これは県が静岡空港の必要性を県民に訴えるため公言してきた開港初年の利用者予測138万人に対して、わずか46%でしかありません。
個別の路線の実績を見ると、鹿児島便は県の予測の17%、札幌便は23%、最も予測に近かった福岡便ですら58%でしかなかったのです。
また、この実績は投じた費用に対してそれを上回るだけの利便性向上等の便益贈効果があるかという費用対効果「費用便益分析」(注:必ず費用を上回ることとなる経済波及効果は全くの別物です)において、その分岐点となる開港初年度の利用者数86万人をも下回りました。つまり、投じた費用に匹敵する便益向上効果はなかったということに帰着する事実です。
今後この人数を超える未来が来るかもしれませんが、「費用便益分析」においてはその前提として開港初年度から右肩上がりで利用者が増えていくことや、維持管理費も最低限のものしか見込んでいませんので、静岡空港の当時の建設が、軽率な失敗行為であったことは未来においても打ち消しようのない事実となりました。
(詳細は2010/7/20「富士山静岡空港年間利用者実績」
県はこの失敗を糊塗するため、税金のばらまきを強化しました。
平成26年度の当初予算では空港運営支援予算だけで約44億円、空港活用名目の予算が約10億円、これ以外にも人件費や県債償還費など空港があるがために支出されています。
(詳細は2014/3/15「平成26年度県予算の聖域静岡空港、空港利用片道1人当たり1万円超の税金注入で路線死守」
開港前のテレビ番組で当時建設推進に前のめりになっていた元官僚の石川嘉延知事は、「グランシップは8億円くらいの持ち出しとなっている。空港は着陸料が丸々入ってこないとしても、今の想定では5億円強で、グランシップの赤字に比べはるかに少ない。」と公言しましたが、今の現実を見て、政治家としてよりも一人の人間として恥じ入ることはないのでしょうか。
(詳細は2007/2/17「NHK特番「徹底討論 開港まであと2年 静岡空港のこれから」概要集」
筆者が開港1年前の2008年3月30日にまとめた「負の資産「静岡空港」とは? 〜県庁が県民に示した虚偽の結末〜」では、冒頭に「静岡空港とは、「需要がある、採算性はあると嘘をつき強制収用という強権まで発動して作ったはいいが、需要なく、天下りポストの確保と航空会社撤退回避のため遊興・観光旅客にまで県民の税金をばら撒く赤字垂れ流し放蕩空港」である」と断言しましたが、昨今の節操のない税金のばらまきを見れば、より醜悪な状況となっています。

静岡空港の利用者数は、開港初年の御祝儀需要が去るや、2年目に入り1年目の需要を下回る月が続くこととなります。そして、開港の1年9か月後、不幸な東日本大震災が我が国を襲い、それに起因する原発事故も相まって静岡空港はもちろん国内空港の需要は大きく低下しました。
しかし、ビザ緩和など国の主導するビジットジャパン(訪日旅行促進)政策により、静岡空港にあっても震災の影響の色濃い3年目に底を打って、主に中国人需要の先導によりV字回復を図ることとなります。
我が国への訪日外国人旅行者は平成23年の621万人から右肩上がりに回復し、平成25年には史上初めて1,000万人の大台を超え、今も伸び続けています。
静岡空港の利用者においてもまた、初年の利用者数記録はまだ超えられないものの、国全体の流れに牽引される形で伸長しています。

県は、この好需要の状況に対して、あたかも空港があったから、一連の空港施策の成果である、かのように毎月の利用者数の発表時などに宣伝していますが、果たしてそうでしょうか。
以下に、これを検証してみたいと思います。

<訪日外国人誘客に見る、空港のない県「山梨県」との比較>
現在我が国には空港のない都道府県が京都府はじめ10府県あります。その中には山梨県も含まれています。
これにより、幸いなことに、静岡県と立地的に近く、同じ富士山世界文化遺産指定効果を共有する山梨県との比較が可能となりました。
比較資料としては訪日外国人の都道府県選好を示す指標として訪日外国人旅行者数と相関の高い(最新の33か月遡及データで0.98という非常に高い相関)「訪日外国人延べ宿泊者数」を用いました。
まずはじめに、底となった平成23年からの「訪日外国人延べ宿泊者数」(「宿泊旅行統計調査」より)の推移を見てみましょう。
訪日外国人延べ宿泊者数の推移(人)
 
23年
24年
25年
26年
全国 18,415,690 26,314,340 33,495,730 44,822,090
静岡 333,560 494,220 559,740 796,970
山梨 250,270 387,360 492,230 941,830

これを、平成23年をベースにした伸び率で表すと、以下のとおりです。
訪日外国人宿泊者数の伸び率
 
23年
24年
25年
26年
全国 0.0% 42.9% 81.9% 143.4%
静岡 0.0% 48.2% 67.8% 138.9%
山梨 0.0% 54.8% 96.7% 276.3%

グラフで見れば、ご覧のとおり、全国平均以下となっています。



全国的に見て不利とはいえない立地の静岡県において全国平均を下回るというのは、国ぐるみで進めている訪日旅行促進の効果を、本県が十分に捕らえていないことを表しています。
そればかりか、昨年平成25年6月22日の富士山世界文化遺産登録という恵まれたチャンスの効果さえ十分に生かせていないことが、山梨県との比較から明らかなものとなっています。

次に、静岡空港からの入国者数を加味した別の視点からこれを見てみましょう。
静岡空港からの入国者数は出入国管理統計から外国人入国者数を捕捉できます。
出入国管理統計(外国人入国者数)
  23年 24年 25年 26年
全国
7,135,407
9,172,146
11,255,221
14,149,373
静岡空港 27,029 36,736 44,997 72,680
構成割合 0.38% 0.40% 0.40% 0.51%
(注:ここで空港の利用者数に比較して数がかなり少ないと感じる人もいるかと思いますが、空港の利用者数は入国で1人出国で1人計2人と勘定するため実際の利用者の約2倍となっているのです。)

宿泊者数と比較するには、これら入国者が県内で何泊するかを仮定する必要がありますが、ご存じのとおり最近の中国人観光客は空港到着後県内で1泊した後に関西に向かいゴールデンルートを経て東京で最後の夜を過ごし翌日静岡空港から帰国するというパターンがほとんどです。もとろん2泊するツアーも、逆に0泊のツアーもありますが非常にまれです。
このことから、以下の分析では県内一人当たり1泊と仮定しての分析となります。
それでは、訪日外国人宿泊者数全国シェアの推移について、静岡県と山梨県の推移を見てみましょう。
訪日外国人宿泊者数全国シェアの推移(静岡県)
 
23年
24年
25年
26年
静岡県計−静岡空港からの入国外国人 1.66% 1.74% 1.54% 1.62%
静岡空港からの入国外国人 0.15% 0.14% 0.13% 0.16%
静岡県計 1.81% 1.88% 1.67% 1.78%

訪日外国人宿泊者数全国シェアの推移(山梨県)
 
23年
24年
25年
26年
山梨県計 1.36% 1.47% 1.47% 2.10%

わかりやすくグラフで表すと、ご覧のとおり、税金を集中的に投下している割には、訪日外国人に対する空港オリジナルのV字回復効果を認めることは困難です。





そもそも空港というものは目的地に到達するための一つの手段・ルートに過ぎません。
訪日外国人が、静岡県内の観光地に行きたいとは思っても、静岡空港を利用したいから訪日したいと思うでしょうか。
目的地があって、どのルートでのツアーにしようかと、日程や価格面含めて比較検討した結果の一つに過ぎません。
いわば、静岡空港への誘導策とは、他空港から来るはずだった客の導線(ルート)を、税金を投じて少しだけ変えたに過ぎないのです。
静岡空港の経済波及効果について言及した際にも指摘しましたが、需要の移転を新規需要であるがごとく錯覚して一喜一憂しているのが今の静岡県の現状です。
(経済波及効果についての詳細は、2014/7/4「静岡空港県内経済波及効果(4年間)、積算根拠非開示のままで発表の欺瞞」及び2014/11/13「静岡空港利用者の推移(開港6年目5か月)中の<経済波及効果追記>
実際見てのとおり、訪日外客が増加している事実は国全体とおおむね共有していますが、静岡県においてはそのほとんどが他空港から入った訪日者であるという事実があり、しかも静岡空港からの入国者を合わせても伸び率は全国平均を下回り空港アドバンテージは見られないということも事実なのです。
対照的に山梨県にあっては空港がありませんので、すべてが他空港から入った訪日外客ですが、空港のないことがハンデとはならず、むしろどこの空港からの入国者であるかに拘泥することなく自由度の高い中で訪日外客を捕捉し、ついには静岡県を抜き去りました。
シェアのグラフ(オレンジの帯の幅の推移)に見てのとおり、平成23年以降の静岡空港からの入国者数増加分などというものは、県全体のトレンドの中にあってさえ、貢献が微少なのものに過ぎないのですが、静岡県は、この全体から見たら実増加への貢献が大きく疑われる施設の維持のために県の経営資源(人やお金)を集中させているのです。
実際、県の予算を見れば、観光振興はじめ何をやるにも空港を絡められるものは絡めないと事業として認められにくい環境です。
一方の山梨県ですが、実際の個々の観光施策を調べても特異なもの、これで効果を上げたと象徴する魔法の杖のようなものは見て取れません。
これは、地味であっても地道な取り組みの成果に加え、隣接し、まさに競争相手でもある静岡県の敵失によるところが大きいものと推定できます。

これをよりわかりやすく例えるなら、良いものをより安くというコンセプトで商品を仕入れて売る自社工場を持たない山梨商店に対して、自社工場生産の割高プライベートブランドを切り捨てられずに赤字覚悟の採算割れの低価格で売り出すものの、それでもなかなか買ってもらえず、さらに赤字を膨らませ、ほかからの良品仕入れに手が回らなくなっている静岡商店、の違いと言ってよいでしょう。

折しも先日の静岡新聞の時評において、「深刻な経済活力低下」と題した法政大学大学院教授の坂本光司氏によるコラムが掲載されていました。
過去5年間(昨年12月にはまとまっていたそうなのでおそらく平成25年までの5年間)における47都道府県の経済成長力を人口、産業、雇用、所得、県民経済、税収など21指標から分析評価したとのことで、静岡県は41位と下位であったとのことです。
その根拠として、過去5年間の転出超過人口数が42位、過去5年間の転農業産出額増加率が46位、過去5年間の小売商業販売額増加率が40位、過去5年間の転製造品出荷額等増加率が35位、過去5年間の地方税増加率が43位などと主要指標の低迷を示し、「ぬるま湯に浸っている」と指摘し県民に奮起を促しました。
しかし、現状において、県民奮起などありえません。
静岡空港建設問題においても、住民投票の署名までは行ってもそこから先の行動については、多くの県民は傍観者でした。
自ら対立の狭間に入っていこうとしないというのは、極めて自然な行動であり、住民投票も許されず阻害された状況にあって、その上、静岡空港が失敗したという事実は、ますます県行政への県民参加を抑圧する要因となっています。県民は嘘が支配した現実を見て、もはや、論理的に行政に異議を申し立てる人も減る一方、お上と呼ばれた信仰に近い権威を行政に感じる人もまた、ますますその数を減らしております。
静岡県は静岡空港によって、目に見える統計数字上・財政上の損失だけでなく、実はより多くの大切なものを失ったのです。

ただし、損をする者がいれば得をする者もいるわけで、多くの県民の利益が失われる一方で、県内にあっても実利を得たものたちもいます。
5年限りの地元補助との約束を反故にし、地元要望での建設という過去を忘れたかのように(※)騒音だけ押しつけて何もくれないのかとして来年度以降の県からの補助金獲得を勝ち取った空港の地元市町の公共事業利権者たちや空港会社に巣くう天下り役人はじめとする空港利権獲得者たちです。(※県議会文化観光委員会内で県空港運営課長が「地元としてはこういう音だけはもらうのか、地元対策という意味での振興策は何かないか」などの地元意見があったことを披露している)
彼らは空港建設実現という現実の政治力を背景に今やその余勢を駆った大きな声で県政を翻弄しています。
ゆえに、今後も郷土静岡県が失ったものは容易には取り戻せないでしょう。
かつて我が国が自身が生んだ虚構に引きずられ無謀な戦争に突き進んだように、静岡県もその為政者側にあってさえその構成個人の意思とは関係なしに支配する虚構に引きずられ、冷静に振り返ることを許されずに、ただひたすら前に向かって突き進むことしかできずに、やがて壁に突き当たるしかないように思います。

今私が多くの傍観せざるを得ない立場の方々に対して言えることは、現実を冷静に見た上で、せめて賢者として、その現実と予測の上に立って個々に必要な準備さをれるように、ということだけです。
もちろん、行動できる人には行動してほしいことは言うまでもありませんが、今に多くの果実を期待してはなりません。
まさに「一粒の麦もし地に落ちて死なずば、ただ一つにてあらん、死なば多くの実を結ぶべし」で、再生のための良き粒で終わる覚悟を持たねばならないのです。
以上


なお、本記事に関連してブログに2015/3/8「冷静な視点と責任ある行動について」もアップしました。


4月8日変更記録:訪日外国人延べ宿泊者数H26年間推計値を、最近国が公表した年間値に変更。これに伴いグラフも入れ替えたが傾向は全く変わらないため記事には一切変更なし。